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周回遅れの読書 漁港の肉子ちゃん [书]


漁港の肉子ちゃん

漁港の肉子ちゃん

  • 作者: 西 加奈子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/09/01
  • メディア: 単行本



漁港が舞台なんですが、小説中では北陸としてある。でも、北海道か東北じゃないか?と思うような描写で、作者の後書きで、もともと宮城県の石巻、女川からインスプレーションを得て書いたものと。そうなんでしょうね。勿論、震災前の町のイメージですが。

私は今でも石巻、女川方面にドライブによく行きますから、なんとなく雰囲気が北陸ポクないなあと。ストーリーは心温まるメルヘンです。母子の話で、主人公は多感な少女。まあ、男の子ではこういう物語は成り立たない。女の子ならではの多感さと繊細さが軸となる展開。

主人公の少女は小説が好きな子です。小説の醍醐味は小説の主人公と同化して没頭できることとある。そうなんですね。重い小説を読んでいると、こういうホッと出来るメルヘンがよろしい。

補足


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周回遅れの読書 風の影 [书]


風の影〈上〉 (集英社文庫)

風の影〈上〉 (集英社文庫)

  • 作者: カルロス・ルイス サフォン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/07/01
  • メディア: 文庫


10年程前の世界的ベストセラーで、本を買ったまま読む機会がなかったもの。日本ではあまり話題にならなかったような。日本だとこれだけ長いと敬遠されるのか?と思いますが。家族の愛憎の物語で、殺人鬼が出てきたりして、定型的なミステリー小説です。舞台はバルセロナで、このスペインの都市とスペイン内戦の暗澹とした社会の雰囲気が出ていて面白い。

ネタバレですが、没落家族の生き残りの復讐鬼となったはずの人物のストリーが抜けたまま終わっている。後半で、アレ?と思うと予感したように韓流冬ソナ風のオチにちょっと白けるのですが、まあ永遠のオチですなあ。なんとなくミステリーですが、主要人物の設定を途中で変更したか、あるいは謎を謎たらしめる為に故意にエピソードを盛り込んで整合性がほんのちょっと付かなくなったままに終わったのか?と思う展開でした。まあ些細なことですが。

小説の最後の方に『本を読むという行為がすこしずつ、だが確実に消滅しつつあるんじゃないかと言う。読書は個人的な儀式だ、鏡を見るのとおなじで、ぼくらが本のなかに見つけるのは、すでにぼくらの内部にあるものでしかない、本を読むとき、人は自己の精神と魂を全開にする、そんな読書という宝が、日に日に稀少になっているのではないかと、、、、』とあって、なるほどそうだなあと思います。

戦争については『戦争は、忘れることをえさにして大きくなっていく。わたしたちは誰もが口をつぐみ、そのあいだに、戦争は、わたしたちを納得させようとする。わたしたちが見たものや、やったこと、自分の経験から、あるいは他人から学んだことはただのまぼろしだった、一過性の悪夢だったのだと、わたしたちに思いこませようとします。戦争に記憶はないし、誰もあえて戦争を理解しようとしない。そのうちに、なにが起こったのかを伝える声が消滅し、わたしたち自身も、戦争というものを認識できなくなるときがやってきます。すると戦争は、顔を変え、名前を変えてもどってきて、後ろに残してきたものをむさぼり食うのです。』と、今の日本がそういう状況かもしれないですが、、、





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周回遅れの読書 何者 [书]





今の就活状況がよくわかる本でした。こちらは終活ですが(笑)、それはさて置き、ツイッターなどのSNSを使いながら自己表現していく若者の落とし穴を描く。若者に限らず、カッコよくスマートに生きる為に、一歩、あくせくした現場から引いて評論家の様に周りをクールに批判する。でありながら、隠れて自分ももがいている。もがく自分は決して他人には見せようとしない。

読んでいるうちに、どうしても読者は主人公と同化して行く、すっかり同化してしまった終わりの方で主人公と同化していた読者もそのプライドをぐちゃぐちゃに覆される。SNSの匿名性を過信していた主人公のウッカリミスから。いかにもありそうな話しです。直木賞受賞作品で上手い書き手です。これ映画になるなあと思ったらなっていた。周回遅れの爺は世事に疎い。

映画の理香の役は二階堂ふみでしたが、彼女ならいいでしょう。この理香がキーパーソンとなる小説ですから。兎も角、小説からのメッセージはかなり健全で、かつ古い感じがしました。タイトルの「何者」がなぜタイトルなのかが最後で判る。作者にしてやられてた感。青春小説です。


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周回遅れの読書 カデナ [书]


カデナ (新潮文庫)

カデナ (新潮文庫)

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: 文庫



サンミゲルビールのことを書いたついでに出した本。舞台は1968年頃の沖縄。当時、リンドン・ジョンソン米国大統領の命によりベトナム戦争で当時の北ベトナムを沖縄の嘉手納(カデナ)基地から飛び立ったB−52爆撃機で爆撃していた。子供頃はカデナは不覚にもベトナムの米軍基地の地名だと思っていた。でっち上げのトンキン湾事件でベトナム戦争の戦線拡大をしたのは、あのJFケネディ大統領です。無差別北爆はジョンソン米国大統領後のニクソン大統領が有名です。ニクソンは和平協定を有利に導こうと北爆を激しく行った、、、和平協定の為に。

小説は、嘉手納の米軍基地から盗み出した北爆情報を北ベトナム軍に流して、爆撃の事前に物資や人員を避難させるというスパイ活動の話。あるいは逃亡米兵をスウェーデンに逃がす活動。出て来る登場人物には純系の日本人?はほどんど出てこない。日本人とはヤマトンチュウのこと。ヤマトンチュウとは内地の人という意味ですが。

主人公は、沖縄人で戦前にサイパンに出稼ぎに行った男性。そこそこサイパンで生活が軌道に乗ったところで、太平洋戦争の戦場サイパンとなり家族親類を全員失って沖縄に戻る。戦場のサイパンの悲惨な戦いについては別の本で読んでいたので、その地獄模様が思い浮かぶ。

その主人公が、アマチュア無線で北ベトナム軍に暗号で情報を伝える役となる。機密情報は、米軍所属のフィリピン人と米国軍人を両親にもつハーフがスパイするのですが、この人は旧日本軍がフィリピンで戦時中に行った暴虐な皆殺し作戦の生き残り。

色々とあるのですが、ネタばらししても仕方ない。この小説の1968年前後は私が高校生で多感な頃で、小説を読みながらああこれか、と思い出すことが多かった。大阪万博の事も出て来る。そして、小説は1975年の米軍のサイゴンからの敗走で終わる。

この小説を読んで思うのは、日米地位協定が無くなり、沖縄の米軍基地が縮小しない限りは日本の戦後は無いのだなあと、、、、米国は、ベトナム戦争後も湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などなど行い、沖縄の米軍基地は今も常に最前線の基地扱い。戦争は人の心を荒む。


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周回遅れの読書 フォークナー短篇集 [书]

フォークナーについては、名前は知っていたのですが読んだことがなかったです。1950年にノーベル文学賞を取っています。短編集を読んでみると、確かに面白い。確かにノーベル文学賞を取るだけの社会性のある作品を書いています。

フォークナーは米国南部ミシシッピー州の作家で、米国の黒人奴隷制度による白人社会の退廃や南北戦争で没落した南部社会の荒廃を描いています。これはなんともキツく重い小説となるわけです。ミシシッピ川はフランスの支配下だった歴史もあり、フォークナーはその歴史を思い起こさせる描写もしています。

読むと引き込まれるのですが、なんとも言えない気分になるんです。偏見による黒人に対するいわれのないリンチだったり、召使い扱いの黒人女性に対する性的虐待、そして南北戦争によって今までの南部社会の伝統文化秩序が瓦解してしまった様子などの描写。ある放火魔のプア・ホワイトの悲惨な生活など、、、

ヘミングウェイが明とすると、フォークナーは米国の暗を描いた作家。日本で見るテレビマスコミの米国は明るくポジティブな面が多いのですが、今の米国でもフォークナーの描く暗くネガティヴな面も持っている。現在のトランプ大統領が出現したのも、この暗くネガティヴな面が原動力となっているのでしょう。

黒人の独白にこんな台詞があります。「おれには白人の台所をうろつくことができねえ」「しかし、白人はおれんところの台所をうろついたってかまわねえんだよ。白人は勝手におれの家にはいってきても、おれはそいつをとめることもできねんだ。白人がおれのうちにはいってきてえと思うが最後、おれは家なんか持たねえとおんなじこった。おれはその白人をとめることができなえが、白人はおれをそこから足蹴りして追いだすわけにはいかねえ。それだけはできねこったよ」と、、、、(「あの夕陽」から)

これを読んで思わず苦笑してしまいました。これは1931年の作品です。しかし、現在の日米地位協定下の沖縄、いや日本全体も実際この1931年の時の米国黒人の家と同じじゃないか。

この短編集で一番気に入ったのは「クマツヅラの匂い」です。父親を殺された息子が、その殺した相手にどう対応したかを描くもの。南部社会では、親族が殺されたら敵討ちをするのが社会正義とされている時代。主人公の息子は丸腰で相手と対峙して、相手を街から追いだす。「汝、殺すなかれ」というモーゼの戒めを実行することは、当時の南部という土壤においては至難のわざと解説にありますが、父が殺されたと聞いて実家に急行する主人公の緊迫感の描写の中で真の勇者を描いた清々しさがあります。

重く暗い短編集ですが良い作品集です。


フォークナー短編集 (新潮文庫)

フォークナー短編集 (新潮文庫)

  • 作者: フォークナー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1955/12/19
  • メディア: 文庫



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最近の芥川賞受賞作品 [书]

なんだかんだと、平成25年度から今までの5年間分の芥川賞受賞作品を読んでみたのですが、一番面白かったのは「コンビニ人間」でした。他に「スラップ・アンド・ビルド」や「死んでない者」「九年前の祈り」も面白かったです。

これらは、時代を考えさせる小説です。順に、いわゆる発達障害(安易に使うのは嫌な言葉ですが)、高齢者介護のフリーター孫、引きこもりの親類、障害児を持つシングルマザーをテーマや背景にしています。こういう、それぞれの社会や時代を背景にする小説は面白い。ところで、どの作品もとても読みやすいのです。読む抵抗感が全くありません。

途中で、安部公房の小説も読んだりしたのですが、これが読むのに凄い抵抗感があります。じっくり構えて読まないと読めない感じです。今の作品はライトノベルと全く同じでスラスラ読める。時代が違うから安部公房は抵抗感があるのか?違うだろう、、、


深重の海 (新潮文庫)

深重の海 (新潮文庫)

  • 作者: 津本 陽
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1982/12
  • メディア: 文庫


この「深重の海」(じんじゅうの海)は1978年に直木賞をとりました。読んだ当時、難しい漢字が多くて読みにくい本だなあと思いました。最近、気が付いたのですが、これ津本 陽の本だったと。その後の津本 陽の作品は読みやすいものが多くて、あれ?と思いました。本も読みやすく大衆受けしないと売れないからわかりやすくなったのか?と思いましたが。


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周回遅れの読書 異類婚姻譚 続き(ネタバレ注意) [书]

異類婚姻譚の同本には他にも短篇が入ってましてそれも読みました。この本はカバーの絵が良かったです(笑)。作家は動物好きなんだろうなあと思わせる文章です。ペットに「この子」と使う箇所があって、まあ違和感です。日本ではペットを我が子にように飼う(と暮らす)人が多くて閉口しますが、他人の勝手でしょうけど。私も犬を飼っていますが、ペットして飼っていて擬人化なんぞしません。

異類婚姻譚は、夫と自分の顔が似てきて、生活も怠惰に自分に似てきて、最後は花になるとうファンタジーです。最初はファンタジーじゃないと思って読んでいて(私はファンタジーに逃げるオチは作家の怠慢だと思えて元々嫌いです)、どうなるのか?と思っていたらオチはまるで民話のように終わった。これが芥川賞受賞作品なんか?選んだ審査員の程度がわかると思いました。

「犬たち」は自分が犬になる人嫌いの人の話。「トモ子のバウムクーヘン」は心身症でパニック障害気味の母親の話。「藁の夫」は夫婦喧嘩の話。文章力はあってドンドンと読めます。大人の民話童話なんでしょうか。人間嫌いか動物好きな方にお薦めの本です。私は前者ですが、、、、


異類婚姻譚

異類婚姻譚

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/01/20
  • メディア: Kindle版



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周回遅れの読書 異類婚姻譚 [书]

この異類婚姻譚ですが、まあ、読むほどでもない本と言えば言い過ぎでしょうけど、日本の今の小説の限界なんでしょうね。読みやすいし、読むと一気に読んでしまう。オチというか、なるほどなあと思う。日本の最近の芥川賞、直木賞受賞作品などズラズラ読んでいますが、主人公と周りの人々の関わりの描写しかないのですね。そこに、時代も無ければ政治もない。舞台が火星でも変わりないだろうというほど浮世離れしている。

この小説に限らずです。日本の作家には拘りはあっても社会性政治性には関心が無いらしい。別にリベラルであれとかコンサーバティブであれというものではない政治性です。夏目漱石の時代から変わりなく、自我と周りとの微妙な関わりしか描いていない。社会的政治的背景がない。

だからライトノベルの如くスラスラ違和感もなく、抵抗感もなく読める。この小説で言えば、終わりの方でどういうオチになるのか?と思うと綺麗事で終わっている。いや綺麗に終わっている。だから安心して読める。芥川賞の書評で村上龍が「読者の側に立ち、考え抜かれた小説だとわたしは判断し、受賞作として推した。」と。そう読者の側に立ち、わかりやすく、抵抗感もなく、違和感もなく、予定調和で、予想通りの結末。これが日本の文学なんか?顧客サービスに徹しているおもてなし文化でしょうな、、、こんなわかりやすいもの書いていては日本は滅びるよ、と私は最後まで違和感ですけどね。


異類婚姻譚

異類婚姻譚

  • 作者: 本谷 有希子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: 単行本




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周回遅れの読書 長いお別れ [书]


長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

  • 作者: レイモンド・チャンドラー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/04/01
  • メディア: 文庫


やっと読み終えました。電子本で購入して、読み続けられなくなって、古本を買って読み終えました。なかなか文体が凝っていますし、ハードボイルドの探偵小説です。最近は村上春樹が訳したものが出ていますが、読んだのは清水俊二のもの。清水俊二と言えば字幕スーパーの訳者でしょうけど。

長い本でした。それでも面白いのでドンドンと読めました。これは1953年あたりに出版されたようです。私の生まれた頃です。そんな昔にこんな文調で書けるとは恐れ入りました。というか米国の話だものね。当たり前ですが。村上春樹が絶賛した本というのは頷けます。

ストーリーそのものより文体がよろしい。「ギムレットには早すぎるね」という有名な台詞があるのですが、これは主人公の台詞ではない。死んだはずだった友人の言葉。その友人は小説の最初のほうで「ほんとのギムレット」の作り方を述べる。


THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ (角川文庫)

THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ (角川文庫)

  • 作者: 矢作 俊彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/11/01
  • メディア: 文庫


こちらも良かったですがね、ロングでも字が違う。矢作俊彦のウィットでしょうな。チャンドラーの方は私立探偵で、矢作俊彦の方は刑事が主人公。まあ、私も日本人なんで矢作俊彦の描く二村刑事の方が親近感がわきましたけどね。チャンドラーの方は映像化が何度かされているのですが、矢作俊彦の二村刑事は確か一度も映像化されていないのでは。

小説はロマンですが、現実を描くには最適なのかもしれません。政治の本はどうも理想を書きすぎて願望が入り込む。それが当たり前ですが。

「長いお別れ」にこんな会話がありました。億万長者が語るのですが、、、「われわれは民主主義と呼ばれる世界に住んでいる。すべては多数決によってきまるんだ。そのとおりに実行されれば、りっぱな理想にちがいない。選挙は国民がするが、(党リーダーの)指名は党の機関がする。そして、党の機関が強力であるためには多額の金を使わなければならない。その金は誰かがださなければならないし、その誰かが個人でも、財界のグループでも、組合でも、かならずなんらかの報酬を期待する。」

新聞マスコミについては「新聞が声をからして叫んでいる報道の自由ということは、ほんのわずかの例外をのぞいて、醜聞、犯罪、性、憎悪、個人攻撃を書き立てる自由、または、宣伝を政治的、経済的に使う自由なのだ。新聞は広告収入によって金を儲ける事業だ。発行部数がものをいうわけだが、発行部数の土台になるものが何かは君も知っているだろう」

そしてこの億万長者がどうやって億万長者になったか?について、主人公の私立探偵は、「(1億ドルの財産については)どうして財産をつくったかぼくにはわかるはずがないが、自分の周囲に他人の手がとどかない組織をつくりあげなければ、そんな財産はできるものではありません」と、、、、、

政治の本には理想が書いてあり、小説には現実が書いてある、、、、


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へミングウェイ・ワールド [书]


蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす―ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)

蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす―ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)

  • 作者: アーネスト ヘミングウェイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/03/27
  • メディア: 文庫



またまたヘミングウェイの短篇集のことですが、このNo.3は特に本が厚いので読み応えがありました。ヘミングウェイ・ワールドにようこそ、という感じです。短篇はそれぞれに面白いのですが、中でも「アフリカ物語」と「ある渡航」、「密輸業者の帰還」が面白かったです。

「アフリカ物語」は象牙狩りの話です。サファリですが、象を追跡して追いつめて大きな象牙を狩る大人に対して、象を見つけた子供の抱く心理が共感できます。象を追いかける途中の描写や子供の心象模様がよく描かれています。ある日、少年が夜中に飼い犬とともに巨大な象と遭遇します。少年にとってはその象は英雄です。物語の最後に仕留められた英雄の象の死を前に、少年は誓います。もう大人には口外しない。自分にとっての英雄は自分の中だけに留めておこうと。

「ある渡航」は、都会人に騙されて、レンタル料金を踏み倒された釣り用の貸し船業の漁師の話です。その穴を埋めるためにヤバい仕事に手を出します。非合法的な密航の手引きです。が、騙されて見殺しになるところだった密入国希望の中国人達の命は救うのですが、その代金はまんまと頂いて逃げていきます。

「密輸業者の帰還」は密輸入に失敗して、本拠地に戻る途中の密輸入業者が、さらに政府関係のたまたま休暇で釣りに来ていた要人に、摘発されそこなう話ですが、昔からの地域の知り合いの老人に助けられて逃げ出す話です。

いかにもヘミングウェイの小説らしさが出ています。アフリカのサファリ、ハンティングの描写ではもうヘミングウェイ以上の作家は出ないでしょう。巨象を追いかける途中の描写、その心理模様が素晴らしいです。「ある渡航」、「密輸業者の帰還」は、共通しているのは都会人に対する幻滅です。前者はリッチなビジネスマン、後者は政府の要人ですが、どちらにも信頼の置けない、セコい輩として描いています。田舎ではそんなもんは本質的に通用しないよと。

ヘミングウェイの世界は、男の世界です。女性は登場しますが、男性が中心で、父親は出てきても母親はまず出てきません。そして、自然派です。刈りです、釣りです、サファリです。ヘミングウェイは少年の心を持った不器用な男の世界を描いています。そこが良いのでしょう。


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